甦る古代金堂 慧日寺金堂の復元【第5回】 塗装 その1 赤
寺社建築の外観を彩る鮮やかな赤色。赤は一般に魔よけの意味合いがあると言われていますが、実は木材の腐食防止や防虫対策にも大きな役割を果たしています。
ところで、一概に赤といってもさまざまな色があって、例えば赤色粘土や赤鉄鉱(せきてっこう)を砕いた「ベンガラ」、辰砂(しんしゃ)や朱砂(しゅしゃ)とも呼ばれ、水銀を含む鉱物からつくられる「水銀朱(すいぎんしゅ)」、鉛を熱して生成する明るいオレンジ色の「鉛丹(えんたん)」など、素となる成分によって発色が異なります。しかもこれらを混合して使用することも多いようです。
復元された平城宮の朱雀門 ベンガラ系の顔料を使用 | 復元された下野薬師寺跡の回廊 やや黒味がかった「赤」 | 春日大社回廊(重文) 耐候性塗料を使用 | 清水寺田村堂(重文) 青空に映える丹塗り |
復元される金堂では、わが国で最も古くから使用されてきた赤色顔料であるベンガラを用います。
本来、ベンガラは鉱物から作られる伝統的な顔料で、赤い粘土や赤鉄鉱(せきてっこう)などを粉末にしたものと、黄土や褐鉄鉱(かってっこう)を焼いて酸化させて発色し粉末にする方法があります。したがって、黄味(おうみ)がかった赤から茶や黒味がかった赤までさまざまです。また、これらの顔料は膠(にかわ)で溶いて塗布されるのが古来の一般的な方法ですが、長い年月の間には色褪せ(いろあせ)や塗装の剥落(はくらく)が起きます。
現在では経年変化や気候に対応した耐候性(たいこうせい)の塗料が開発されており、今回はそれらの色見本を見ながら検討を行いました。その結果、色落ちや管理面の配慮から、頭貫(かしらぬき)以下の部分には耐候(たいこう)塗料を用い、頭貫(かしらぬき)より上位は従来の膠(にかわ)仕様の塗装とすることに決定しました。
耐候仕様と膠仕様の色見本を並べ 検討を重ねました | 耐候ベンガラを2回塗装します | 36本すべての柱に塗装 |
ベンガラ | 耐候 (たいこう) | 軸部(じくぶ)、長押(なげし)、 建具、連子窓枠(れんじまどわく) | |
膠 (にかわ) | 組物(くみもの)、 軸部(じくぶ) | ||
黄土 (おうど) | 膠 (にかわ) | 垂木木口(たるきこぐち) 隅木木口(すみきこぐち) 丸桁木口(がぎょうこぐち) 虹梁木口(こうりょうこぐち) | |
胡粉 (ごふん) | 耐候 (たいこう) | 床下換気口 | |
膠 (にかわ) | 化粧屋根裏 | ||
緑青 (ろくしょう) | 耐候 (たいこう) | 連子格子(れんじこうし) |