猿のよめとり/磐梯町の伝説と昔話

猿のよめとり
むかし、むかし、あったどよ。
どこだかの村に、めげえ娘が老母(ばや)とふたんじぇ(二人で)住んでいだだど。
いづだがふたんじぇ、まんま(ご飯)喰ったあど、後片付けしてぇっと、
へぇりぐち(入口)の戸をトントン、トントンとはだく(叩く)やづがあったど。
老母だちは
「ハテいまっころ、だんじゃべな(誰だろう)。何がでぎだだべが。」
って、にわ(勝手)さ、おっちぇって 「ガラッ」 と戸をあげでみだだど。
したらば、おもでにいっつも山のはだけ(畑)荒らしてしょうがね、山のおんつぁまが立っていだんだど。
老母は、心の中で 「ハデ困った。なにしに来たんだべ。」
と思ったげんじょ、仕方ねぇがら
「何だべ。何が用があんのがよ」 って聞いだっつうもなぁ。
したらば山のおんつぁまがゆったづも。
「ばや、ばや、こんにゃ(今夜)は、おめ(あなた)に頼みでぇごどあって来たがら、
ながさへぇらせてくなんしょ(中に入れてください)。」 っていったづもなぁ。
老母はしょうがねがら
「あがらんしょ」 って言ってへぇって(入って)もらって、 ゆるり(囲炉裏)の端(はだ)さ、よってもらったんだど。
したれば、山のおんつぁまは、びだぁっとキジリさ座って頭さげで
「こんにゃの頼みは外でもねぇ。
こっち(お宅)の家の姉様、おれの嫁にくっちぇくなんしょ。
いままでは村の人に迷惑かけもぉしたげんじょ、
嫁にもられっごっちゃ(貰えるなら)これがらは決してわりいごど(悪いこと)はしねぇし、
ばやにはうそごかねぇで親孝行しっから、どうがくっちぇくなんしょ。
ばやの喜ぶごどはどんなことでもやっから、どうがくっちぇくなんしょ。」
って、何べんも何べんも、一所けんめいになって頼んだんだど。
老母は、はじめのうぢは、おっかねがったり、びっくらしたりしてだげんじょ、
あんまり一所けんめんなのんで、しっしょがねぐなって、娘んどご呼ばって
「なんじょする。山のおんつぁま、おめんどご、嫁にもらいでいってゆうんだぞ。なんじょするま。」 って聞いて見たんだど。
そうしたら、娘は
「さっきがら聞いでだげんじょ、ほんとに親孝行でぎんだら嫁さいってもじぇ。」
ってゆったずもなぁ。
老母は「なじょなごどになるもんだがなぁ。」 って思ったんだど。
そんじぇも、娘が嫁にいぐっつうがら、大急ぎで嫁入りじだぐしてやったんだど。
あしたのあさげ、花婿の山のおんつぁまがむげぇ(迎え)にきたがら、猿の嫁になのくっちゃくねがったげんじょ、連っちぇってもらうことにしたんだど。
そんどぎ、老母がひょいと気がついで、
木綿の小袋さ、ゴマの種いっちぇ(入れて)がら、袋の底、チョキンとハサミで切って、
ゴマの種がポロポロ下さ落ちるようにして嫁様のこしさぁ(腰に)下げてがら、
山さ、ふたんじぇ行ってもらったんだど。
悲しがったべなぁ。
せぇがら、山のおんつぁまと花嫁は、山のおんつぁまのえ(家)さ行ったんだど。
嫁様だぢが山さ来てがらっつうもの、
山のおんつぁまは嫁様をでぇじ(大事)にして何でも嫁様のゆうとおりにして、仲良ぐ暮らしていたんだど。
なんぼが好きだったんべなぁー。
ウグイスが鳴いて、桜の花が咲いだだど。
嫁が山のおんつぁまにゆったづもなぁ。
「おらえ(私の家)のばやは、今頃の桜の花、でぇ好きで、見たらよろこぶべなぁ」
それ聞ぐど山のおんつぁまは
「そんじゃ、桜の花とってって、ばやに見せんべ。」 ってゆったっけが、
気がついで、 「ばやは、餅すぎだっつったがら、餅もついでいぐべ。」 つうごとになって、
せぇがら(それから)餅をつくごどになったんだど。
餅米といで蒸かして臼さいっちぇ(入れて)、ストン・ストンとついたんだど。
うめぇ餅がでぎだがら
「ホラ、何餅にすんだ。アンコ餅が。」 って聞いだら、
嫁が
「おらえのばあは、アンコ餅はアンコくせぇっつって喰わね。」 ってゆったがら、
山のおんつぁまは
「そうが、アンコ餅がきれぇだら(嫌いなら)キナコ餅はなんじょだ。」 っつったら、
嫁は
「おらえのばやは、キナコ餅はキナコくせぇって喰わね。」ってよったもんで、
「そんじぇは、クルミ餅はなんじょだ。」つったら、
嫁は 「クルミ餅もクルミくせぇって喰わね。」
山のおんつぁまは
「仕方ねぇーがら、ついたまんま臼さいっちぇ持ってぐしかねぇ。」 って、
つきたての餅、臼さいっちぇまんま背中さしょって、老母の家の方さ、行ぐごどにしたんだど。
ずーっと老母の家の方さ行ぐうち、左手の方にたけぇ崖があって、その真ん中辺に桜の花がワッサワッサと咲いていたんだど。
右手の方はふけぇー崖があって、
その谷ぞこには雪どけ水がゴンゴン、ゴンゴン流っちぇる川があったんだど。
そごさぎだら、嫁様が
「おらえのばやは、あのたげぇどご(高い所)に咲いてる桜の花がでぇすき(大好き)だ。」
っつったもんで、
山のおんつぁまは背中の臼おどして(降ろして)木登りすんべと思ったら、
嫁様が
「おらえのばやは、臼、土に下ろすと土くせぇって喰わね。」 とゆうもんで、
山のおんつぁまは下ろしかけた臼をしょった(背負った)まんま、 崖さのぼってって桜の木さ上がって、
足で桜の枝、ユッサ・ユッサと揺すって下の嫁様に
「この枝でえーが。」って聞いたがら、
下で嫁様は
「あぁ、もちぃーと先の枝。」ってゆうもんで、
山のおんつぁまは臼おもでぇ(重たい)し、枝はほせぇげんじょ、ズズッと足をのばして、
またユッサ・ユッサと枝を揺すって
「この枝がぁー。」ってゆったら、
下で「いまちぃーと先。」ってゆうもんで、
おんつぁまもおっかねげんじょ、また先に行ってユサユサ揺すって
「これがぁー。」ってゆっている(言ってる)うちに、
えは細ぐなってくんべし、臼は重いもんだがら、 桜の枝、バリバリバリーっとおだっちぇ(折れて)、
臼しょったまんま、ゴロゴロゴローと落ちていって、
しめぇーに川ん中さ、ドボーンと沈んだど。
そうしてドブンドブンと流っちぇいっちまったんだど。
娘は、山ん中のかぁーばた(川端)の道で、
どっちぁ行っていいが分がんねぐなっちまって困ってっと、
道の脇をヒョイと見たら、嫁にくっとぎポロポロ落っちゃゴマの種が芽ぇ出してズーっと続いでおいでいだ(生えていた)がら、
そのゴマのいでる道を辿ってきたら老母が待ってるうっつぁ(家)ついたんだど。
せぇがら(それから)、老母の家の村は山のおんつぁまに荒らされたりしなぐなったし、老母も娘も仲良く幸せに暮らしたんだど。
ざっと昔さげぇました。(栄えました)