弘法様とあさつき/磐梯町の伝説と昔話

弘法様とあさづき
昔、大寺を通って横達の方へ行かれる坊様がいました。
道割堂の上のあたりで、朝になったので一休みして行こうと、道端の一軒の家によって声をかけ、休ませて貰うことにしました。
立ち寄った家のお年寄りは大変よろこんで、よくおもてなしをしようとして、囲炉裏の端によって休んでもらい、
「一寸待っていてください」 と断って、表へ大急ぎで出て行きました。
随分時間が経って帰ってきたお年寄りは、どこから採ってきたのか、瑞々しい野菜をいっぱい持っておりました。
その野菜を切って、鍋で煮てから、坊様にさしさしました。
坊様は大変喜んで、その朝食をいただいてから
「ご馳走様でした。 とてもうまいものでしたが、これを何処で採ってきたのですか。」 と尋ねました。
お年寄りは
「この辺りには、すぐに間に合うような野菜が採れず、向こうの谷まで採りに行くより外にないのです。」 と答えました。
すると、その坊さまは持っていた袋の中から黒い小粒の種を出して、
「これを畑に撒いてみなさい。毎年、春先に青い芽を出しましょう。いつでも採って食べられますよ。」
と言って立ち去っていきました。
後で聞いたところ、この坊様は弘法大師であったということが分かりました。
弘法さまが、その時、置いていった黒い種子を畑に撒いたところ、
青い葉の 「あさづき」 になって、そこら中に広がって人々を喜ばしてくれました。