笠地蔵/磐梯町の伝説と昔話

笠地蔵
ヤスオという若者と母ぁさまが二人(ふたん)じぇ住んでただど。
雪がどんどん、どんどん降ってナ、間もなく正月になる頃だど。
「ヤスオ、もうお正月だわ。よぐ降るゆきだな。
そだげんじょナ、明日は正月だがら、今日は年取りだ。
おめな、その俺織った反物持って、町さ行って何か買ってきてくんにぇが。」 って言ったんだど。
そしたらヤスオは 「うん、わがった。」 つっただど。
そしたらな、母ぁさまは 「ヤスオ、きーつけで行くんだぞ。 今日もまた、こんなに雪が降るもんだもなぁー。」
と言って、母ぁさまはヤスオんどこ送り出してやったんだど。
ヤスオはな、膝までもある雪踏んで出掛けて行ったんだど 。
そして、行く途中、ちょいっと何気なくみだらな、地蔵様が六人立って居っさって、頭の上さ重そうに、冷っけ雪、上がっていんだど。
「あー、地蔵様、こんじぇは寒かんべな。」 と思いながら、町さ行っただど。
そして、反物買って貰いでぇと思って、あっちこっち歩っただど。
そしたら、ある所でナ、反物、売っちゃだど。
そして、 「何買っていぐべかな。」 と思って、店眺めながら
「魚がなーまずは。」 何んて思っていただげんじょナ、そんどき、ふっと地蔵様のごど思い出したんだど。
何んぼ、石の地蔵様だってナ、このように一寸先も見えー程、どんどん、どんどん降る雪ん中でナ、 「何ぼか寒かんべな。 」と思ったんだど。
そーしたら、むずさぐって、むずさぐってしょがねがっただど。
「あー、俺どおっ母は何食わねだって、あーやって、あったげ家(じぇ)ん中に入(へぇ)って、 火ぼんぼん焚いで、熱いお湯沸かして飲まれんだ。」
そう思ったらヤスオはナ、反物売ったお金で六つの笠買っちまったんだど。
「そうだ、あの地蔵様にこの笠、被せだら、何ぼかあったげがんべ。」 と思ってナ。
そして、六つの笠たがぐと、さっさ、さっさど雪降る中、気ぃ揉んで帰って来ただど。
そうして、地蔵様の前さ来てな、頭の雪、一つ一つ綺麗に払って、
「地蔵さん、この笠かぶっとちぃーとはあったげがんべがら、この笠かぶっていっせよ。」 ってナ。
一つ一つ被せで頭の下で紐をぎっちり結んで、風で飛ばさんにぇように縛って、家さ帰って来たんだど。
そうすっと母ぁさまは
「ヤスオ、いやいや御苦労だったな。いま帰ってきたのが。」
「んー。おっ母今帰って来た。そだげんじょな、おっ母、おら、何も買ってこねがっただ。」 っつたど。
「あら何だべ、何も買ってこねなんてオメー、んじゃ、おっ母の織った反物、売んにぇがったのが。」 つっただど。
そうしたらヤスオはナ
「いや、反物は売っちゃだげんじょも、
行ぐどぎ地蔵様が頭ざ重でほど、雪一杯溜めて寒そうだったがら、
おら、何にも買わねで、おら、おっ母と二人んじぇ、囲炉裏さ火いっぺどんどん焚いで、あったげ家に居られんだ。
と思ったら、むずせぐって、むずせぐって、笠六つ買ってきてナ、
そして、地蔵様さ被せて、春までナ、我慢しっせよ。
今に雪消えっとお参りにも来さんだしナ。
あったげぐなったらナ、つって笠被せて来たんだど。おっ母。」 って言ったんだど。
そうしたら、母ぁさまは
「そうが、そうが、そんな良いごどしたのが、おめぇ。 えがった、えがった。
おら達はこんなにあったげぇ家もあるし、焚物もいっぺあっからナ、あーにしゃ、じぇーごどしてきたな。」
って、ヤスオんどこ母ぁさまは褒めたんだど。
そして、「早ぐ入れ、入れ、寒かったべ。」 って言いながらナ、
火、ボンボン焚いで 「ヤスオ、そんじゃしょがね。 神様も分がってくれんべがら、良ぇごとしただがら。
そんじゃお湯、どんどん沸かしてナ、火もどんどん焚いでナ、この正月はそうやって過ごすべ。
おっ母がナ、また、一所懸命はだ織ってナ、今度は何か買って、正月送られんべがら。」
と言って、母ぁさまと二人んじぇ、火、ぼんぼん、ぼんぼん焚いて家をあったがーくして寝ちまっただど。
そしたら何だがナ、
「ヤスオの館どごだ。ヤスオの館どこだ。」
って言いながら、遠くのほうでバダン、バダンって聞こえんだど。
母ぁさまは
「ヤスオ、ヤスオ、大変だ。何がおっがねの来っさったぞ。起きでみろ。」つっただど。
「ぁんー、何だおっ母。」
「ほらほら、聞いででみろま、あっちの方がらな、ヤスオの館どごだ、ヤスオの館どごだって来たんだぞ。黙ってでみろ。」つったど。
二人んじゃ黙って聞いでだら
「あっ、本当だ、本当だ。何だべおら、おっかねな。」つっただど。
そうして、段々近づいて来っから、ヤスオと母ぁさまはおっかねぐなって、布団かぶって黙っていただど。
「ヤスオ、おらえの家の方さ来たぞ。」って言ってるうち、
「ドサッ」っと何か置いでっただど。
いゃーおったまげて、二人んじゃ布団バガーっとかぶって、震えていたんだど。
そうしているうち、静かになったんだど。
段々、東の空が明るくなって来てがら、
「ヤスオ、夜が明けだぞ。何だかわかんねげんじょ、戸開けて見てみっか。」つっただど。
そして、母ぁさまが起きてナ、そろーと戸をちぃっと開けて見ただと。
そしたら、遠くの方でナ、
「あぁ、じぇーごどしてきだ。やっぱり、あの息子はじぇー息子だったんだナ。」
って言いながら、六人の地蔵様が帰って行ぐどごが見えたんだど。 明るぐなったがらナ。
そうして、足跡がバラバラ、バラバラあって、ちょっと足元見ダラナ、いろいろ一杯食い物があっただど。
母ぁさま、腰抜けるほどたまげただど。
「ヤスオ、早ぐ来てみろ。ほれほれ、こんなにナ、今、地蔵様が行がっただわ。
きんなの地蔵様だ。
おめぇが良ぇごどしたがらな、こう言う風にして一杯持って来て下さったぞ。
あぁ、ありがて、ありがて。」 ってナ。
母ぁさまは、その六人の地蔵様の後姿を拝もしていたんだど。
そうして二人はナ、その地蔵様の置いていったご馳走でナ、それはそれはじぇー正月したんだど。
んじゃがら、人は決して何時んなってもナ、人を哀れんで、やさいい気持ちでいなぐってはなんねんっだぞ。
「何だ、この地蔵様、寒がんべ。」 って見てぐ人もいっけんじょ、
ヤスオは、「何ぼが寒がんべ。」 っと思って笠被せて来たんだもナ。
あったど昔、さげぇました。