楽しい食生活を送るために [5]
近頃「口腔ケア」という言葉をよく耳にしませんか。口腔ケアとは、口腔(口の中)衛生の改善のための清掃および口腔の持つ種々の働きを補い、支えるケアのことです。
現在、日本人の死因の第4位となっている肺炎は、その92パーセントを65歳以上の高齢者が占めています。口腔ケアは、このような高齢者の様々な病気の因果関係にも、実は深く影響を及ぼしています。
例えば、老人性肺炎の特徴は、誤嚥性(ごえんせい)肺炎が多いことです。口の中には誰でも常在菌という細菌が存在していますが、高齢者の場合、寝ている間などに唾液に混じった細菌を少量ずつ誤嚥して肺炎を起こしてしまうことがあります。また、食物を誤嚥した時に、神経や筋肉の衰えにより咳などで異物をうまく排除することができず、気管に落下して肺炎を起こすことがあるのです。毎食後のうがいや歯みがきで常に口の中を清潔に保つことが大切です。
特別養護老人ホームによる長期追跡研究において、口腔ケアが誤嚥性肺炎の予防に効果的であることが科学的に示されています。また、口臭と歯ぐきの炎症も口腔ケアによって著しく改善することが分かりました。さらに、口腔を衛生的で機能的に保つことへの意識が認知症の予防にもつながるそうです。
ご家族に高齢者がいる場合、食べることへの楽しみを失わせないためにも、口腔衛生には十分配慮していただきたいと思います。口腔ケアは、口腔のみならず全身の健康を守るためにも、とても大切なのです。口腔は生命の入り口であり、魂の出口でもあるのですから。
奥羽大学歯学部附属病院 助教授 清野 晃孝